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東京高等裁判所 平成5年(行コ)219号 判決 1995年6月26日

埼玉県秩父郡小鹿野町大字下小鹿野九八一番地の一

控訴人

友金六生

右訴訟代理人弁護士

下林秀人

山本裕夫

青木護

埼玉県秩父市日野田町一丁目二番四一号

被控訴人

秩父税務署長 髙田靜治

右指定代理人

小濱浩庸

高田秀子

瀧正弘

宮嵜弘

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人が昭和六二年三月一三日付けでした控訴人の昭和五九年分の所得税に対する更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六二年八月一三日付けの荒川税務署長の異議決定及び昭和六三年一二月二〇日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)の各処分のうち、総所得金額七六〇万七九一三円を超える部分を取り消す。

2  被控訴人が昭和六二年三月一三日付けでした控訴人の昭和六〇年分の所得税に対する更正及び過少申告加算税賦課決定の各処分のうち、総所得金額一〇四九万二〇二四円を超える部分を取り消す。

3  控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六二年三月一三日付けでした次の各処分を取り消す。

(一) 控訴人の昭和五八年分の所得税に対する更正のうち総所得金額一七〇万円及び納付すべき税額一三万九七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六二年八月一三日付けの荒川税務署長の異議決定及び昭和六三年一二月二〇日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

(二) 控訴人の昭和五九年分の所得税に対する更正のうち総所得金額一八八万七〇〇〇円及び納付すべき税額一六万五九〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六二年八月一三日付けの荒川税務署長の異議決定及び昭和六三年一二月二〇日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 控訴人の昭和六〇年分の所得税に対する更正のうち総所得金額二二二万四〇〇〇円及び納付すべき税額二一万二一〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人の答弁

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

一  本件の事案の概要及び争点は、後記二及び三のとおり、当審における被控訴人の新たな推計方法に基づく主張とこれに対する控訴人の反論を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点」のとおりであるから、これを引用する。ただし、当審における被控訴人の主張の変更により、原判決の記載を次のように訂正する。

1  原判決三枚目裏一行目の末尾に「(主位的主張)」を加える。

2  同六枚目裏五行目の「一一〇四万六四三九円」を「一一〇二万五七一〇円」に、同一〇行目の「六五六万二〇二九円」を「六五八万二七五八円」に、同一一行目の「二二・一六パーセント」を「二二・二三パーセント」にそれぞれ改める。

3  同七枚目表三行目の「二三〇五万〇〇一六円」を「二三〇二万九二八七円」に、同裏八行目の「一一〇四万六四三九円」を「一一〇二万五七一〇円」にそれぞれ改める。

4  同四一枚目(別紙三)の「表3 昭和60年分類似同業者」表のうち、同業者Cの「<2> 売上原価等(円)」欄の「6,069,907」を「6,266,082」に、「<3> 経費率(<2>÷<1>、%)」欄の「10・94」を「11・29」に、平均の「<3> 経費率(<2>÷<1>、%)」欄の「22・16」を「22・23」にそれぞれ改める。

二  当審における被控訴人の主張(予備的主張)

1  売上原価等の推計による方法でなく、経費総額、換言すれば、算出所得ではなく最終所得を推計する方法(以下「最終所得率法」という。)により控訴人の事業所得の金額を推計すると、本件係争年分の所得金額は、次のとおりであり、いずれも本件各更正にかかる金額を上回ることとなる。したがって、本件各更正及び本件各決定は、これによっても適法であるということができる。

(昭和五八年分)

(1) 売上金額 一七三八万三九四八円

(2) 所得率 三七・二一パーセント

(3) 事業専従者控除 四〇万円

(4) 事業所得の金額 六〇六万八五六七円

(昭和五九年分)

(1) 売上金額 二四五九万〇三五四円

(2) 所得率 三九・八九パーセント

(3) 事業専従者控除 四五万円

(4) 事業所得の金額 九三五万九〇九二円

(昭和六〇年分)

(1) 売上金額 二九六一万二〇四五円

(2) 所得率 四〇・〇七パーセント

(3) 事業専従者控除 四五万円

(4) 事業所得の金額 一一四一万五五四六円

2  以上の計算の根拠は、次のとおりである。

(一) 売上金額

被控訴人が控訴人の取引先等の調査によって把握した金額であり、主位的主張と同じである(この金額については当事者間に争いがない。)。

(二) 所得率

本件係争年分における控訴人の同業者の所得率(最終所得率)の平均値であり、その算出根拠は、別紙七ないし九のとおりである。最終所得率算出の対象となった控訴人の同業者は、被控訴人の主位的主張と同じ者であり、抽出基準も主位的主張と同じである。

(三) 専従者控除

控訴人の妻純子にかかる事業専従者控除の額であり、主位的主張と同じである(この金額については当事者間に争いがない。)。

(四) 事業所得の金額

(1)の売上金額に(2)の所得率を乗じ、(3)の事業専従者控除を差し引いた金額である。

三  当審における被控訴人の主張(予備的主張)に対する控訴人の反論

1  被控訴人の予備的主張である最終所得率法による推計は、被控訴人の主位的主張におけるのと同じ同業者の比率による推計であり、主位的主張について控訴人が反論したことと同じ問題があり、違法または不当である。

2  仮に被控訴人の主張を前提としても、収入金額と特別経費率との間には有意的な相関関係が認められず、被控訴人主張の推計に合理性はない。

別紙七ないし九の各同業者の特別経費を売上金額で除した特別経費率は、極端に低いものから高いものまで著しい相違があり、売上原価等を売上金額で除した一般経費率の分布範囲に比べても、概ねその二倍以上、昭和五九年分については六倍以上の広がりを示している。また、特別経費率と売上金額との関係を統計学的に分析すると、その間には相関関係が認められないといえる。

したがって、各同業者の個性が強く、相関関係のない特別経費を含む経費総体の経費率を根拠に、控訴人の所得を推計する最終所得率法による推計が不合理であることは明らかである。

四  証拠

本件の証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  争点ないし三について

争点一(推計の必要性があるか否か。)、争点二(本件調査は適法なものであったか否か。)及び争点三(推計の合理性があるか否か。)についての当裁判所の判断は、次のように訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第四 争点に対する判断」の一ないし三(原判決一四枚目表七行目冒頭から二六枚目表一〇行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二二枚目裏三行目末尾から四行目冒頭の「乙一三号証」の次に「、乙二六号証の四、弁論の全趣旨」を加え、同二三枚目表一行目の「一〇・九四パーセント」を「一一・二九パーセント」に、同二行目の「二二・一六パーセント」を「二二・二三パーセント」にそれぞれ改める。

2  同二四枚目裏四行目の「特に」から同六行目末尾までを「控訴人が指摘する昭和六〇年分の本件類似同業者Cについて、同年中の最大の経費率を示す同業者Bと比較しても、Bの経費率がCの概ね二・五倍程度の範囲に止まっているのであり(昭和五八年分の類似同業者FとBの経費率の比較においても、FはBの約二・五倍である。)、全体としてみても、推計自体を不合理ならしめる程度に異常な数値を示していると認めることはできない。そもそも、前記類似同業者の抽出基準を合理的なものとして採用する以上は、その範囲内に入ってきた数字はすべて無作為に網羅的に用いなければ意味がないものであって、その数字の一部を更にばらつき等の尺度で取捨選択することは、新たに別の抽出基準を加えることになり、相当でない。また、Cの経費率に関する主張を被控訴人が変更したのは、減価償却費の算出に関する経理処理をより合理的な方法に改めたことによるものであり(この事実は、弁論の全趣旨により認めることができる。)、その内容が控訴人に有利な変更であることも考慮すると、これを不当とすることはできない。」に改める。

二  争点四(控訴人の本件係争年分の実額による必要経費額)について

1  売上原価等について

当裁判所は、控訴人が必要経費のうち売上原価等の実額を主張して被控訴人の推計による所得額を争う場合には、控訴人が主張する売上原価等の実額が当該係争年分の総収入と対応するものであることについて、合理的な疑いをいれない程度に立証する必要があり、控訴人としては、その主張する収入金額が当該係争年分の全ての取引から生じた総収入金額であることを主張、立証するか、あるいはその主張する売上原価等の実額が、被控訴人の主張する収入額に個別的に対応することを主張、立証しなければならないところ、本件においては、その主張、立証は認められないと判断する。その理由の詳細は、原判決「事実及び理由」欄の第四の四1(原判決二六枚目裏二行目冒頭から二九枚目表三行目末尾まで)と同じであるから、これを引用する。ただし、原判決二六枚目裏四行目から五行目の「六五六万二〇二九円」を「六五八万二七五八円」に改める。

2  特別経費について

被控訴人は、控訴人が本件係争年分に支出した給料賃金及び外注費については、特別経費に属するものであるが、売上原価等と同様に、収入との個別的、直接的な対応関係を有しているのであって、その実額を主張して推計による所得額を争う者は、売上原価等の場合と同様に、その実額が当該係争年分の総収入に対応するものであることを、合理的疑いをいれない程度に立証する必要があると主張する。

しかし、特別経費は、個別的特性が強いため各納税者の特別な経費とされていて、売上原価や一般経費に比較すると、収入との間における個別的、直接的な対応関係が必ずしも密接であるということができない性質のものであり、また、被控訴人が本件で主張している控訴人が支出した給料賃金及び外注費は、被控訴人が反面調査等によって把握できた実額であるが、これについては、被控訴人自身、「被控訴人の主張する収入金額(把握できた限りの額)との個別的・直接的な対応関係は必ずしも明確できないものの、納税者である控訴人に有利に解釈して右対応関係が一応あるものと認めて主張しているにすぎない。」というのであって、これらの経費と被控訴人が主張する売上金額(これもまた被控訴人が反面調査により把握できた限度において、その限りでは実額である。)とが、個別的、直接的に対応していることについての主張、立証がされているわけではない。したがって、これらの経費について、控訴人が被控訴人主張額を上回る金額を支出したことを実額により主張、立証することは、基本的に許されるべきであって、その場合において、控訴人主張の実額が、当該係争年分の総収入に対応するものであることを、合理的疑いをいれない程度に立証する必要があるとまでいうことはできないと解すべきである。

もっとも、特別経費に属する費目のすべてが収入との対応関係が密接でないということはできず、その対応関係の強弱は、その費目の性質のほか、個別具体的な事情によっても異なると解される。これを本件の特別経費のうちの給料賃金についていえば、控訴人が営む金属時計バンド研磨業は、後記のとおり、従業員一名と臨時に雇用するパートのほかは、控訴人本人、妻及び長男(控訴人の主張では、さらに長男の妻が加わることになる。)が稼動する家族労働で行われているのであるから、控訴人が支出する給料賃金は、もともと売上原価を構成するものに近い性質を有していると解されることも考慮して判断すると、給料賃金の支出が全体として売上金額と相関関係がないことについての特段の事情がある場合を除いては、売上金額と相当程度に密接な関係を有していたと推定するのが相当である(本件においては、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。)。また、本件の必要経費のうちの外注費についても、その性質上、売上金額と相当に密接な関係を有していると解される。

そして、本件において、被控訴人主張の売上金額は、もともと被控訴人が把握できた限りのものであり、控訴人にはそのほかに捕捉もれとなっている売上があり、被控訴人主張の売上金額が控訴人の本件係争年分の収入の全額でないことは前記認定のとおりである。

したがって、本訴において、控訴人が特別経費についての実額を主張、立証することはもとより許されるのであり、その実額が、当該係争年分の総収入に対応するものであることを、合理的疑いをいれない程度に立証する必要まではないのであるが、以上の諸点を総合すると、控訴人が立証すべき必要経費の実額のうち、前記のとおり売上金額との対応関係が相当程度に密接であると認められる給料賃金や外注費についての立証は、客観的な帳簿書類等の関係書類による裏付けがあるなど、確実な証拠に基づくことが必要であって、これを欠いているときは、その立証がないものとして取り扱うことが相当であると解される。

以上の観点に立って、控訴人が主張する必要経費の実額の立証について検討することとする。

3  正美及び友金洋子(以下「洋子」という。)の給料賃金

当裁判所は、本件係争年分における控訴人の正美に対する給料賃金の支出は被控訴人主張額のとおりであり、洋子に対する給料賃金の支出はこれを認めるに足りないと判断する。その理由は、次に付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第四の四2(一)(原判決二九枚目表六行目冒頭から三〇枚目表七行目末尾まで)と同じであるから、これを引用する。

原判決二九枚目表九行目の「洋子」の前に「正美の妻である」を、同三〇枚目表七行目の「存在しないから、」の次に「控訴人の実額の立証は、確実な証拠に基づくものであるとはいえないから、本件全証拠によってもその主張を認めるにたりないのであって」をそれぞれ加える。

4  坂本の給料賃金

当裁判所は、本件係争年分における控訴人の坂本に対する給料賃金の支出が被控訴人主張額を上回ることについては、結局のところこれを認めるに足りないと判断する。その理由は、次のように訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第四の四2(二)(原判決三〇枚目表九行目冒頭から三一枚目裏一行目末尾まで)と同じであるから、これを引用する。

原判決三一枚目表八行目の「からすると、」から同九行目末尾までを「が認められるが、その記載内容は、ノートに時刻を羅列した程度のものであって、必ずしも十分な裏付けがあるということはできず、甲第四号証の出勤簿の正確性に問題がないわけではないが、全体としては、坂本に対して残業手当が支給されていた事実を一応は認めることができる。」に、同一〇行目の「原告は、」から三一枚目裏一行目末尾までを「以上によれば、控訴人は、坂本に対し、右期間内にその残業時間に見合う残業手当を支給したことが一応認められるというべきであるけれども、現実に支給した残業手当の額については、これを裏付ける確実な証拠はなく、また残業時間数についても、出勤簿の正確性に問題があることは前記のとおりであって、結局のところ、この点についての控訴人の立証は不十分というほかない。したがって、坂本に対する給料賃金の額が、被控訴人主張額を上回ることについては、本件全証拠によってもこれを認めるに足りないことになる。」にそれぞれ改める。

5  河内文子の給料賃金

控訴人は、河内文子(以下「河内」という。)に対し、原判決別紙六の表4記載のとおりの給料賃金(パート代)を支給していたと主張し、原告本人尋問の結果、証人洋子及び同河内の証言によれば、河内が昭和六〇年中に控訴人方でパートとして稼動し、その間給料と交通費を支給されていたことが認められる。

しかし、河内が、本件係争年分において、夫の控除対象配偶者とされていたことについては当事者間に争いがなく、控訴人が同人に支給した給料等についての給料明細書、領収書等は存在していないと認められることに加え、控訴人が現実に支給した給料等の額については、前記の証言等を裏付ける確実な証拠はなく、また勤務時間数が記載されている甲第四号証の出勤簿についても、その正確性に問題があることは前記4のとおりであるから、結局のところ、この点についての控訴人の立証は不十分というべきである。すなわち、河内に対して支給した給料等については、現実に支出されたその実額について、本件全証拠によっても認めるに足りないのであって、控訴人の主張は失当というほかない。

6  借入金割引料

当裁判所も、被控訴人が主張する額を上回る借入金割引料についての控訴人の主張は、失当であると判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」欄の第四の四3(原判決三三枚目表七行目から三四枚目表七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

7  外注費

甲第七号証の一、八号証の一ないし一二、三九号証の一ないし三、四一号証の一、二と証人伊藤マツ子の証言によれば、控訴人は、本件係争年分の外注費として、被控訴人が主張する当事者間に争いがない額のほかに、原判決別紙六の表8及び表9のとおり、伊藤マツ子に対し、昭和五九年に五四万九九七〇円、昭和六〇年に五三万三六八六円(出来高は五三万三七二六円であるが、誤って四〇円少なく支払ったことが認められる。)を支払ったことが認められる。この事実を認定した前記各証拠は、客観的な関係書類を含み、全体として相互に信用性を高めている確実な証拠と評価できる。

したがって、控訴人の実額による特別経費の主張は、前記2の観点に照らしても、外注費について右の限度においては、その立証が十分であるということができる。そして、このように確実な証拠により、外注費の実額が立証されている以上は、被控訴人主張のように、外注費が売上金額と密接な対応関係を有する性質の特別経費であるとしても、控訴人においてこの外注費が総収入に対応するものであることについて、合理的な疑いをいれない程度にまで立証する必要があるとはいえず、この点に関する被控訴人の主張が採用できないことは、前記2のとおりである。

三  控訴人の事業所得金額について

以上の認定及び判断によれば、本件係争年分における控訴人の事業所得は、昭和五八年分が五六三万二三一〇円、昭和五九年分が七六〇万七九一三円、昭和六〇年分が一〇四九万二〇二四円となる。

四  被控訴人の予備的主張について

被控訴人は、主位的主張が理由がないときには、最終所得率法によれば、控訴人の本件係争年分の所得が、本件各更正及び本件各決定における所得金額を上回っていると予備的に主張する。

しかし、昭和五九年分についていえば、控訴人の同業者の最終所得率(別紙八の<7>欄)は、最小の一九・五二パーセントから最大五九・七七パーセントにわたり、その間の格差は三倍余りに達しているほか、特別経費(同<3>欄)が収入金額(同<1>欄)に占める割合である特別経費率を計算すると、最小の同業者Bは、九・二〇パーセント、最大の同業者Cは、五四・八七パーセントとなり、その間の格差は五・九六倍にも及んでいることが認められ、また収入金額と最終所得率あるいは特別経費率との間における相関関係も見出しがたいと評価でき、また昭和六〇年分についてもほぼ同様の状況が認められる。これは、先に述べたように、特別経費は個別的特性が強く、売上原価等に比較すると、収入との間の個別的、直接的な対応関係が必ずしも密接であるとはいえないことがあるためであると考えられる。したがって、より合理的に控訴人の所得を補足できる推計方法が他にない場合であれば格別、そうでない本件において、被控訴人主張の最終所得率法による推計は、合理性を欠くものというべきである。被控訴人の主張は採用することができない。

第四結論

以上によれば、本件各更正及び本件各決定(ただし、昭和五八年分及び昭和五九年分については、いずれも昭和六二年八月一三日付けの荒川税務署長の異議決定及び昭和六三年一二月二〇日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)は、昭和五八年分については、前記認定の控訴人の事業所得金額を上回っていないから適法であるが、昭和五九年分については、前記認定にかかる控訴人の事業所得金額七六〇万七九一三円を上回っている限度において、また、昭和六〇年分については同様に一〇四九万二〇二四円を上回っている限度において、いずれも違法であるから、その部分につきこれを取り消すべきことになる。

そうすると、控訴人の本訴請求は、昭和五九年分更正及び昭和五九年分決定のうち、控訴人の所得金額七六〇万七九一三円を超える部分並びに昭和六〇年分更正及び昭和六〇年分決定うち、一〇四九万二〇二四円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから、いずれもこれを認容し、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。

よって、控訴人の請求の全部を棄却した原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙橋欣一 裁判官 三輪和雄 裁判官 浅香紀久雄)

別紙七

昭和58年分

別紙八

昭和59年分

別紙九

昭和60年分

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